離婚調停を申し立てたほうが良い場合
夫婦間での協議がまとまらない場合に離婚を行う方法としては,夫婦の一方が家庭裁判所に離婚調停を申し立て,協議を行うという方法があります。
調停離婚とは,夫婦間の話し合いで離婚の合意ができない場合や,慰謝料や財産分与,子どもの親権など夫婦間の話し合いでは解決できない場合に家庭裁判所で「離婚の調停」を行い,調停が成立して離婚することです。離婚トラブルの場合はすぐに裁判で解決するのではなく,まず調停で話し合うことが義務づけられています(調停前置主義)。離婚調停では,基本的に相手方と直接話すことはなく,調停委員を通じて話し合いを行います。
以下のようなケースでは,一般的に離婚協議よりも離婚調停に移行したほうが良いといえます。
相手が離婚の話し合いに応じてくれない
相手が離婚を拒んでいる場合は,相手と直接話し合いをしたり説得を試みても,相手が離婚について話すこと自体を拒否したり,話し合いをうやむやにするといった態度をとって,協議が進まないことが多いです。
離婚調停に移行すれば,夫婦双方が調停期日に家庭裁判所に出向く必要があるため,離婚の話をせざるを得なくなります。
しかも,第三者である調停委員が間に入って話し合いを行うことになりますので,2人で直接話し合いをするよりも話し合いが前に進む可能性があります。
離婚調停を申し立てても相手が調停に出席しないといった場合は,調停でも話し合いは進まないということになります。しかし,そのようなことが続けば,離婚訴訟においてそれらの事情も考慮され,離婚を認める判決につながりやすくなるといえます。
離婚を切り出しても,相手が感情的になり,話し合いにならない
特に,相手にDVやモラハラの傾向がある場合は,このケースに当てはまることが多いかもしれません。
第三者である調停委員が話し合いに入ることによって,相手が感情的になることは比較的少なくなり,また,あなたが相手に威圧されることがなくなり,離婚に向けた話し合いがスムーズに行われる可能性が高くなります。
また,調停に移行したことを受けて相手が弁護士を付けた場合は,相手から感情的,あるいは理不尽な主張が出る可能性が低くなります。
ただし,相手方の弁護士は,相手にとって有利な離婚条件を求めるのが通常ですので,対等に協議を進めるため,あなたも弁護士に依頼することをお勧めいたします。
相手が財産開示に応じてくれない
夫婦間の協議では,相手が財産開示に協力的でない場合に,相手の手元の財産の内容を知る方法はありません。
しかし,調停手続に移行すれば,調停委員から夫婦の双方に対して財産の開示を要請することがあります。第三者である調停委員から言われた場合,相手が任意に財産を開示する可能性があります。
また,調停手続においては,「調査嘱託」という手続を取ることも出来ます(調査嘱託とは,裁判所を通じて情報を開示させる制度です)。
これによって,相手が財産開示に応じなくても,相手の財産の内容を知ることができる場合があります。
別居をしているが,婚姻費用が支払われていない
夫婦には法律上,生活費を互いに分担し合わなければならないという扶養義務が生じます。
そのため,離婚をせずに別居をしている場合は,一般的に,収入の少ない側から収入の多い側に対し,生活費(婚姻費用)の支払いを請求することができます(婚姻費用分担請求)。
そして,相手が任意に婚姻費用を支払わない場合には,家庭裁判所に婚姻費用分担調停を申し立てることができ,さらに,調停でも相手が婚姻費用の支払いに応じない場合は,裁判所が婚姻費用の支払いを命じる審判を出すことになります。
ただし,婚姻費用の審判では,婚姻費用分担調停の申立て時以降の分のみが認められ,調停申立て時より前に遡って認められることは少ないのが実情です。
そのため,別居をしたが,相手より婚姻費用を受け取っておらず,婚姻費用分担調停の申立ても行っていないという方は,少しでも多くの婚姻費用を確保するために,早急に同調停の申立て手続きを行うことをお勧めします。
親権に争いがあり,相手に子どもを連れ去られるおそれがある
離婚後は,夫婦のいずれか一方のみが未成年の子どもの親権者になります。未成年の子どもの親権者をどちらにするか決めない限りは,離婚をすることができません。
そのため,夫婦の双方が子どもの親権を主張して争い,いずれも譲らない場合は,協議が平行線となってしまいます。
こういった場合,離婚調停手続に移行すれば,両親のどちらが親権者としてふさわしいか判断する目的で,家庭裁判所調査官が子どもの意見を聞いたり,子どもの自宅訪問を行ったりする調査が行われることがあります(家庭裁判所調査官とは,法律だけでなく心理学・社会学・教育学等の知識を有する裁判所の職員です)。
これらの調査を通じて,親権者としてどちらが適しているか実態が明確となり,親権者についての争いが収束することも期待できます。
そのため,親権に争いがあり,離婚の協議が前に進まないという方は,離婚調停の申立て手続を行う方がいいでしょう。
また,子どもが相手に連れ去られる可能性のある場合も,離婚調停を申し立てれば裁判所の関与の下で協議が進むことになり,事実上,相手方が子どもを連れ去るといった強引な行動をとりにくくなります。
離婚調停を弁護士に依頼するメリット
調停では,調停委員が夫婦の間に入ってくれるから,自分でも対応できそうだと考える方もいらっしゃいます。
確かに,裁判とは違い,離婚調停の手続を自分で進めること自体は可能ですが,それと「自分が望むように離婚の話し合いを進めること」とは別です。
調停は,裁判のように書面主義ではなく,基本的に話し合いで進むため,調停当日にその場で的確な判断や回答をする場面があります。
初めて離婚調停を経験される方が,裁判所で調停委員に自分の言いたいことを過不足無く伝え,調停を有利に進めていくことは想像されるより難しいと思います。
また,調停委員は,あくまでも当事者間の話し合いを仲介するだけですので,相手に対する不満などを親身に聞いてくれる委員もいますが,基本的に一方の味方はしません。
そのため,自分に有利な条件で離婚を勧めたい場合は,やはり自分の味方である弁護士に依頼されたほうがよいでしょう。
弁護士は依頼者の方とともに調停に出席し,依頼者の方の想いを法律的に主張・立証し,調停委員を説得します。また,裁判所の考え方を依頼者の方に「翻訳」して伝えますので,安心して調停を進めることができます。